一滴もこぼさず冷水機から水を飲む方法

はじめに

おそらく僕が今まで書いた中で最も奇妙なタイトルを持つこの記事は、ISer Advent Calendar の25日目の記事として書かれています。その理由は、僕が大学で摂取する水分のほとんどを情報科学科(ISと略される)の建物にある冷水機に依存しているからです。実際、まだ僕は本郷キャンパス内で一度もペットボトル飲料を購入したことがありません。冷水機は一階の階段付近にあり、通るたびに水を飲んでいるので、わざわざ飲料を購入する必要がないのです。

水分を冷水機に依存するということはすなわち生命を冷水機に依存することでもあるわけですから、冷水機への感謝の念というものが芽生えてきます。せっかく無料でおいしい、冷たい水が飲めるのだから、それを一滴も無駄にしないように僕は努力するべきではないか、と考えたわけです。その努力の結果としてたどり着いた、「一滴もこぼさず冷水機から水を飲む方法」について、理論と実践の面から解説します。

現状把握

さて、冷水機から水をこぼさず飲む方法を考えたいわけですが、そもそもなぜ普通に冷水機から水を飲むと水がこぼれて(口の中に入らず無駄になって)しまうのでしょうか?

まず考えられるのが、飲んでいる途中で口の中の水を飲み込もうとして口腔内の圧力が上がり、一時的に水をほとんど吸い込めない状態になってしまうことです。これを解決するのは簡単で、冷水機から水を飲んでいる途中に水を飲み込まなければいいだけの話です。もちろん、飲める水の量は口の中に一度に貯められる量までに制限されてしまいますが、個人的には十分な量だと思います。途中で飲み込まないといけないほど大量の水を冷水機で一度に飲みたい、という人はあまりいないのではないでしょうか。どうしてもそれ以上飲みたければ一度水を止めて飲み込んでからまた飲み始めればいいだけです。いずれにしろ飲み込むのをやめる以上の対策は考えていませんし、水を吸いながら飲み込むのは実際問題としてかなり難しいのではないかと思います。

さて、では途中で飲み込まなければ一滴もこぼさなくて済むのかというとそんなことはありません。おそらく通常は、飲み込んでいないタイミングでも一定量の水がこぼれ落ちているはずです。これを解決しようというのが今回の記事です。

原因の分析

この謎を解くカギになるのは、まず冷水機の水流が不安定であるということです。程度の差はあれ、冷水機の水は「ちょろちょろ」という擬音語からもわかる通り多少の揺らぎを伴って上昇してきます。おそらくあなたが冷水機の水を飲むときは、その揺らぎの影響を受けない中央部、つまり常に水流が存在する場所めがけて口を近づけ、飲んでいるはずです。だから、揺らいでいる外側の水(中央部に対して周縁部と呼びましょう)は、あなたの口の中に入ることができず、こぼれてしまっているのです。

ではなぜあなたは周縁部を飲もうとしないのでしょうか。これにも明確な理由があります。周縁部はタイミングによっては水かもしれないし、空気かもしれません。水と空気を両方吸い込もうとしたら何が起こるでしょうか。そう、あの音です。コップの底の残りわずかなジュースをストローで吸うとき、あるいは熱いスープを冷ましながら飲もうとする時の、あのズズーッという音が、間違いなく発生します。つまり、あなたは、社会通念上避けるべきものとされている液体を啜る音を発生させないよう、無意識に周縁部の水を捨てているのです。試しに周りに人がいないときに、いつもより大きめに口を空けて冷水機の水を啜ってみてください。すさまじい音がするでしょうが、ほぼ一滴残らず水を飲むことができるはずです。しかし周りに人がいない時しかできないのでは意味がありません。これをいかに社会通念に逆らわない「方法」に仕上げるかが重要なのです。

水の性質

この方法を考え、実践するにあたって一つ我々が把握しておくべきは、液体としての水の性質です。化学を勉強した人ならわかると思いますが、水は分子間で水素結合を形成しており、そのおかげで沸点・融点・粘度・表面張力などいずれもほかの液体より高く・大きくなっています。氷が水に浮くのも水素結合が原因です。

水面の端が壁に沿ってすこし上がっていたり、漏斗の口をコップに添わせると水が速く流れたり、表面張力でコップの上端からはみ出してあふれそうな水がいったんこぼれ始めると一気に減る、といったイメージが大事になってきます。

微調整と完成

水の中央部だけを飲むと音がしない代わりに水がこぼれ、周縁部まで飲むとすべて飲むことができるが啜る音が発生してしまう、ということを今まで見てきました。この両極端の中間で、啜る音もほぼ発生しないし水も落ちない、という場所(=口を開ける適切な大きさ)を見つけることができれば、この記事の目的は達成されます。

これを見つけるにあたってさっきの水の性質が役に立ちます。結論から言えば、ほどよい大きさに口を開けておけば、

①口の開いている部分はほとんどが水で満たされる(表面張力)

②口より外側に来た水も、吸い込まれる水に引っ張られてくる(粘度)

という二つを満たすことができます。これはもう個人の感覚で見つけていただくしかありません。ただし啜るほうから出発するのはリスクが高いと思うので、中央部だけ飲んでいる状態から徐々に口を開ける大きさを広くしていき、水を張ったままにしておける最大の大きさを見つける、というのがいいと思います。たまに空気が入ってしまう程度なら、周りに聞こえるほどの啜る音は発生しないので、ギリギリよりちょっと大きめを狙うくらいがいいのではないでしょうか。また、口を開けすぎて隙間ができるのは、啜る音が発生する以外にも、せっかく吸い込んだ水がそこから漏れてしまうという弊害もあります。唇をどの程度尖らせるかなど、個人差もあると思うのでやはり各自で感覚を掴んでもらうことが大事です(僕としても、より確実に成功する開け方を今後研究していくつもりです)。

開始処理・終了処理

今まで解説していたのは、うまく水をこぼさずに飲めているときの「状態」でしたが、ものごとには始まりと終わりがあります。

飲み始めは意外と難しいです。さきほど水の性質の項で、コップから水があふれるイメージについて述べましたが、これが水を飲むときにも当てはまります。水をこぼさず飲めているのは、言ってみれば水があふれる寸前の状態を常に維持していることになるので、いったん水がこぼれ始める、あるいは最初からこぼれた状態になっていると、あとから修正するのは簡単ではありません。なので、最初だけは多少啜る音がするのを覚悟で、水をこぼさないことを最優先にして強めに吸い込み、だんだん吸い込み方を弱めていって口の内側を水で満たしていく、という感じでやると上手く行きます。

水を飲み終わるタイミングについては、口を閉じる前に水を止めて最後の一滴まで吸い切れれば大丈夫です。これが決まった時の快感は格別です。唇についた水が顎のほうに落ちないように下を向き、唇の隙間に水を這わせておくといったような技術もあるので研究してみてください。

補足

大枠は以上ですが、知っておいたほうがよさそうな細かい知識を述べます。まず、水流の不安定性は少ないほうがいいので、できるだけ低い位置つまり水が出ている場所に近い場所から飲むようにしたほうが成功しやすいでしょう。水勢も強いほうが飲みやすいですし、これも近いところから飲んだほうがいい理由になります。ただ、あまりにも近いと見た目が悪いので、通常の位置でもできるよう精進しましょう(僕もまだまだです…)。また、水流が斜め向きに出ていて広がっている場合などは、それと平行な角度になるように口を開けたほうがいいかもしれません。

ちなみに一滴もこぼさないなどと述べてきましたが情報科学科の冷水機は最初に出る水がぬるいので3秒間くらいは飲まずに捨てています。あと、こぼさずに飲めることをとある友達に自慢したら彼もできるらしく、彼は水流の頂上付近で下唇を出して飲み、落ちてくる水を全て下唇で受け止めるという方法を取っているらしいです。ほかにもやり方があるかもしれませんね。

おわりに

以上、一滴もこぼさず冷水機から水を飲む方法について解説しました。自動販売機の普及や衛生面のイメージから駅などでは冷水機の撤去も相次ぐ昨今ですが、僕自身は周りにある冷水機が撤去されないことを願い、水をこぼさないように飲み続けたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。