クラオタ的"This Is ARASHI"全曲レビュー①

僕はクラシック音楽が好きで、ほとんどクラシックしか聴きません。それはもちろんクラシックのほうが良いと思っているからです。でも、聴かないのに嫌いと言っているのでは、バルトークストラヴィンスキーを全く訳が分からないといって毛嫌いし、ショパンベートーヴェンばかりを有難がるショボいクラオタと同じです。嫌いと言うならば、ちゃんと真剣に聴いて、どういう曲なのかをある程度理解して、それからであるべきだと思います。もちろん本当に心底訳が分からなければ仕方ありませんが、それは"嫌い"とは違うはずですし、幸いなことにJ-POPの大半は調性音楽なのでそういうことはありません。ちなみにこの前聴いたブーレーズのピアノ・ソナタ2番は分かりませんでした。1楽章が終わる10秒前くらいに、この曲そろそろ終わるな、と思ったくらいです。ショボいクラオタでごめんなさい。でも嫌いとは言いません。言いながら聴いてたらちょっと分かってきた気がしてきた。寛容さは大事です。

というわけで、僕は寛容なので、よく考えたらポップスの中でもたまにはいいなと思う曲があるわけです。その数少ない例が嵐の曲で、なぜかというと人は何回か聴いた曲を好きになりがちで、僕が何回か聴いたJ-POPといえば家にCDがある嵐くらいしかないからです。ああ一応NEWSのも一枚あったっけ。でも嵐のほうが有名だしちょうど最近配信も開始されたしってことで、聴きます、"This Is Arashi"。

大まかな方針としては歌詞は専門外だしそもそも聴き取れないことが多いので特に印象が強いもの以外は評価対象にしません。歌の技術についても同様です。嵐はみんな歌が上手いのでミスとかを気にしなくてよいのはありがたい限り。評価は5段階でつけます。

たまにF-Durとかなんとか書いてありますが、絶対音感のない人のほうが多い以上は本質的ではないのでそこは分かる人だけが読めば良いと思います。

 

Turning Up

★★☆☆☆

最初からいきなり聴いたことない、しかも今までのイメージにない曲が出てきて面食らった。リズム感は少なくとも個人的には嵐っぽくないと思ったし、ビートが変わってサビに入るところの高揚感はなかなかだったが、いざ入ってみると繰り返しが多く単調であまりおもしろくなかった。サビの最後の方、ここで同じ音型二回繰り返すだろ?て思ったら本当にそうなったときは興ざめした。とはいえこれはよく考えてみるとトラブルメーカーのサビの印象が残っていたせいかもしれない。Bメロも同じ音型の繰り返しであんまり好きじゃない。曲自体が短いし、飛び跳ねるようなリズム感を大事にしていて歌詞の密度が高くないので、全体の情報量が少ないと思った。

 

Happiness

★★☆☆☆

小学校の運動会の応援歌になったりして割と馴染みはある曲だがどうも暗くて好きになれない曲の一つである。そもそも第一印象が応援歌なのがふさわしくないのかも。Happinessって感じの曲じゃなくないですか?Aメロの音域が低すぎるだろ。3度のハモりもうざったい。Bメロは改めて聴き直してみると意外とまともだった。サビに向かって盛り上げていく雰囲気は出ているし旋律線も収まりが良い。さてそれでいよいよサビに行こうというところで、僕がポップスを嫌いである大きな理由の一つ、"モチベーションの分からない転調"が現れる。もちろんこれが好きな人もいるので個人の好みだとは思うが、少なくとも僕は、なんでそこでF-DurじゃなくてDes-Durに行くんだ?フラットの数がこんなに増えてHappyなハズがないだろう、と思う。というかサビ自体も短調の響きを含んでいるように感じる。そんな転調をするからサビが終わった後の調の戻り方も気が抜けたようになってしまう。だったらそのままの調で次に行けばいいのに。

あーちなみにポップスが嫌いな理由に挙げましたけどクラシックでもモチベーションの分からない転調をする曲はあるし、そういうのは嫌いです。

2番の後の間奏に行くところで気が抜けるのはいいですけどね。間奏だから。

歌いやすさと曲の良さに負の相関がありそうってツイートしたけどこの曲はまさにそれですね。

 

Love so Sweet

★★★★☆

これも知ってる曲。たしかこの曲で運動会の何かのダンスを踊った。

上記と同じくちょっと気に食わない転調だが、そればかり言っていても仕方がないし、導入も後処理もHappinessよりちゃんとしている。

サビが結構良い。Aメロが拡大された5度跳躍のリズムと「ずっとずっと」の相性がよく、「きっと」の「き」に割り当てられた最高音Gisのアクセントも効いている。締めくくりの「信じることが全て」に落ち着く感じも説得力がある。最後のサビの「信じることが全て」の2回目のベースラインにあるFisはちょっと安直な気がするけどまあいっか。yeah yeah yeahで遠ざかっていく感じもよくできてると思いました。

 

One Love

★★★★☆

曲名には聞き覚えがなかったが家のCDにある曲だったようで、聴いたことがあった。

これも割といい。Aメロの落ち着きもBメロの浮遊感も良いし、サビの転調が滑らかで曲の内容とマッチしている。サビも、ちょっとしゃくりが耳につくけど良い旋律だと思う。

 

A・RA・SHI

★★★★☆

超有名なデビュー曲で、これをこき下ろしたら友達が減りそうだなあ…というところだが心配は無用、これはそんなに悪くない。

冒頭のちょっと音程がはっきりしなくて雑然とした感じ、こういうの何ていうんですか?たぶんちゃんとした用語があるんだろうけど聴かなさすぎてわからない。底抜けに明るいとまでは言わないけど、無用の暗さがない曲で、減点要素が少ない。サビのコードも含めてそこまで着飾らない感じで、歌唱力で勝負という感じがする。それを可能にするだけの歌唱力があるのは素晴らしいことである。全体として、デビュー曲にふさわしい曲だと思った。

 

Monster

★★★☆☆

これもHappinessと同様あまり好きじゃない曲。Es-mollの暗さから逃れられない不完全燃焼な曲という感じがするし、サビのフレーズ感がぶつ切りで単調だと思う。まあ曲調は「怪物くん」の主題歌としてなら受け入れられるかな。曲として独立するには弱い気がする。

 

Truth

★★★★★

これは良曲だと思う。なんとカラオケで歌ったことがある。Happinessとは逆に、曲が良いほど歌うのが難しいと感じさせられる作品の一つ。

薄い序奏からまさに「ゆらりゆれる光ひとつ」のように小刻みに湧き出る低音域の旋律が更に音域を下げていくのが面白く、3度のハモリもうるさくない歌い方。Bメロの「こぼれ落ちた涙のあと 凍えそうな涙の色」のバックコーラス?(またもや用語がわからない)も、多声部の音楽をよく聴く人間にはうれしい仕掛け。これがそのままサビの予告にもなっているんですね。

Bメロとサビの境界にある「悲しみ」の忽然とした感じも評価が高いし、サビの旋律も音域が広く、一旦下がってから「それは まるで」で動き出すのは歌いだしのところを彷彿とさせる。最後の「ままで」で裏声になって遠くに消えていく感じも、裏声で逃げた感じが全然無いので上手くやったなと思った。てか地声で歌おうと思えば歌えるか。

低音域と高音域などの対比、遠近感に聴き応えがある傑作。

 

復活Love

★★★☆☆

第1曲以来の知らない曲。これも第1曲と同じであまり嵐のイメージじゃないと思ってしまった。もしかしたら知ってる作曲家の聴いたことない曲を「イメージと違うね」とさも知ったように表現してしまうショボいクラオタに成り下がっているのかもしれない。でも冷静に考えて作曲者が違う可能性があるから仕方ない。

前奏はちょっとオシャレだしAメロのコード進行が単純なのもむしろJ-POPぽくないからいいけど、最近「王道進行」という概念を知ってしまってBメロはもろにその響きがしますね。

Bメロ前後は一聴してフレーズ感がつかみにくいから意外といい曲なのかも。サビはちょっとしつこいかなあ、コードはAメロのあたりと関連してるようだから(直前に冒頭と同じ和音が鳴る!)、そんなに複雑にはしなくていいけど同じ音型の繰り返しごとにもう少しだけ変化があってもいい。

あとはひとつながりの言葉なのにフレーズが切れ過ぎな感じはしました。

 

WISH

★★☆☆☆

知ってる曲。三拍子系の拍子は好きだけど、まず第一にサビが間延びしてて魅力がないと思う。ハモリがないと耐えられない。Bメロ2の「君はそんな」「僕じゃまるで」に伴奏が応答するやつ、これはサビの真ん中に入ってる伴奏の「ソラシレド#シ」と関連する音型なのかな?まあそういう3拍子の良さは好きだしこの曲はいまいちです。

 

Brave

★★☆☆☆

知らない曲。これはイメージと違うなとは思わなかった。全体に金属音がガサガサしてうるさい音響。こんくらい歌が聴こえにくい方が喫茶店のBGMとかには良い気もする。でもどこを聴かせたいのかよくわからない曲だと思った。旋律・和声は可もなく不可もない。ちなみに演奏時間が4分33秒だった。

 

Guts!

★★☆☆☆

冒頭がなんか結婚行進曲みたいでウケました。AメロはつまんないけどAメロだからいいです。「こころがざわめいてた」のキモい旋法はちょっと評価できる。Bメロの転調は普通かと思いきや「僕らは」のところは意外性があって面白い!Fisのドミナント「叫」〜んで、H-durに行ってサビ!かと思いきや…え?Dの音が…H-moll?この曲は嫌いです。H-mollに行くならさっきの「僕らは」の和音は要らなかったと思います。わかって聴けばそんな変じゃないかもしれないけど、クラシックでもポップスでも、こういう信頼関係を破壊するような和声は嫌いです。「常識なんて吹きとばせ」?そういうことじゃないだろ。

 

夏疾風

★☆☆☆☆

またつまらないAメロと王道進行の組み合わせか。却下。

 

アオゾラペダル

★★★☆☆

久々に知ってる曲。嫌いだと思ってたけど、ちゃんと聴くと、ゆっくりで推進力がないなりに良い曲に仕上がっていると感じた。Braveみたいに「綺麗な色を塗りすぎ」てない。Wikipediaによると「嵐のシングル表題曲では最も演奏時間が長い」んだそうです。

減点要素は「空を飛べ   そうなくらい」ですかね。

 

A Day in Our Life

★★★☆☆

One Love以来の、"実は知ってた"曲。延々とオブリガートのラップが鳴り響く、風変わりな曲(これもそういうジャンルを知らないだけだとは思う)。ユニクロとかで流れてそう(こなみ)。一応AメロBメロサビはあるんですね…難しい。ちょっと面白い曲です。

 

言葉より大切なもの

★★☆☆☆

普通の曲だが、Wow wowの比重が大きすぎる気がするのとサビ冒頭の「ファ#ーファ#ーミレドレ」のファ#の主調が強すぎる気がするので減点。

 

とまどいながら

★★★☆☆

普通。サビ直前と真ん中にある半音階進行が取ってつけたようで好かない。

 

感謝カンゲキ雨嵐

★★★☆☆

3+3+2のリズムが印象的だがサビは単調だと思う。ラップの前の間奏がちょっと面白い。

 

Bittersweet

★★★★☆

知らない曲だったが良かった。こういうふうにBメロが遠い調に行ってサビで戻ってくるほうが個人的に聴きやすいです。メロディーの流れも変化が多くて飽きません。サビからAメロに戻ってくるところはもうひと工夫あってもいいかな。落ちサビから大サビに入るときの「誰よりも 君を」を言い切れずに次に行くフレーズ感は高評価。

 

初めて未聴の良い曲に出会ったところで5000文字に達したので一旦止めて公開しておこうかと思います。

王道進行って本当に至るところにあるんだなあとか、Bメロってこんなに律儀に毎回のように書いてあるもんなんだ、とか落ちサビと大サビっていう用語とか、ポップスについての理解が深まった気がします。まだ全体の1/4くらいですがだんだんコンパクトに書けるようになってくる気もするのであと2記事分かな。次回もお楽しみに(する人いるのか?)。